聖地・高野山が育んだ、胡麻豆腐という精進の結晶
弘法大師空海の開創以来、千二百年以上にわたり祈りが重ねられてきた高野山。その地で、精進料理の要として受け継がれてきたのが胡麻豆腐です。明治三十八年創業の浜田屋は、高野山山内において百余年にわたり胡麻豆腐一筋のものづくりを続けてきました。皮を丁寧に取り除いた白胡麻を贅沢に用い、時間と手間を惜しまず練り上げることで生まれるのは、なめらかさと粘りを併せ持つ独特の食感。信仰の山の日常とともに磨かれてきた、静かな完成度がここにあります。
健やかさを願う、変わらぬ製法と素材
浜田屋の胡麻豆腐づくりでは、仕込みの際に般若心経を唱える伝統が今も守られています。それは形式ではなく、食べる人の健やかさを願う心を込めるための所作。原料は胡麻、葛、水のみ。葛には昭和天皇も愛用したとされる吉野の本葛を使用し、独特の弾力と粘りを引き出します。水は高野山の岩盤から湧き出る天然水。保存料を使わず、職人が季節や気候を見極めながら手作業で仕上げることで、すっと消える後味が生まれます。
精進文化を味わう、一切れの静かな贅沢
浜田屋の胡麻豆腐は、特別な料理であると同時に、高野山の日常の味でもあります。参拝者へのお接待として、また山内の人々の暮らしの中で、変わらず供されてきました。わさび醤油で引き締めて、あるいは和三盆を添えて甘味として。素材の持つ自然な甘みと旨味が際立ちます。世界遺産・高野山の静寂と信仰の歴史を背景に、百余年守られてきたこの一品は、精進文化そのものを味わうための、控えめで確かな贅沢です。
