千年の山が生む、上質な「松煙墨」
和歌山の山々に育つ赤松を燃やし、その煤を一粒ずつ集めて生まれる紀州墨。千年以上前から続く松煙墨の系譜を、現代に伝えているのが 紀州松煙 です。墨は単なる筆記具ではなく、精神や祈りを映す文化。その思想のもと、原料となる赤松の選定から煤の採取、墨の完成に至るまで、すべてを手仕事で一貫して行う姿勢が、他に代えがたい品格を宿します。
障子焚きが導く深みと透明感
紀州松煙が守り続ける伝統技法「障子焚き」。静寂のなかで赤松を焚き、障子に付着した煤のみを丁寧に集めることで、松煙墨特有の青みがかった深い黒、いわゆる“青墨”が生まれます。和膠のみで練り上げられた墨は、磨るたびに焚き火のような芳醇な香りを放ち、線には美しい掠れと奥行きある濃淡をもたらします。その墨色は、書にも水墨画にも、静かな緊張感と透明感を添えます。
磨る時間さえも美に変える、真の贅沢
墨を磨るという行為は、描く前の所作であり、心を整える時間でもあります。紀州墨は、速さや効率とは無縁の世界に身を委ねるための道具。里山の間伐材を活かすことで自然と循環し、文化を未来へとつなぐ存在でもあります。一画ごとに深まる余韻。その静かな豊かさこそ、本物を知る人のための贅沢です。
